2018.02.10

荒金 大典

仕事の幅が広い
デザイナーの秘密

現場にいると、たまに編集者やデザイナーから、キャリアの作り方について相談されることがあります。雑誌を制作する世界では、ひとところで何年も同じ媒体、同じ仕事を続けるようなことも多いため、ずっと今の仕事を続けていたら時代に取り残されるのではないか、今の仕事しかできなくなるのではないか…といった相談です。そんな時は、私は「全く問題無い」と答えることにしています。

 

私自身、四半世紀のデザイナー人生の中で、多くの時間を雑誌のデザインばかりに費やしてきました。同じデザイン領域の中でしっかり経験を積むと、立場は徐々にディレクション寄りになってきます。雑誌のデザインでいうと、ページデザイナーから始まり、一冊の整合性をとるチーフデザイナーになり、いずれはメディアとしての「在り方」をみるアートディレクターとなっていきます。アートディレクターになった時、ふと別のデザイン領域が凄く近いことに気付きます。

 

なぜ別の領域が近くなるのでしょうか。それは、ディレクター寄りになっていくと、視点が「上がる」のではなく、視点が「潜る」からなのです。

 

ディレクションとは、上から全体を俯瞰するような視点で物事を見ることではなく、物事の本質(中心)には何があるのかを見つけることです。枝葉は全て刈り取って、最後に残るものをすくい上げることです。デザインという仕事全体を球体に例えると、表面は広くて色々なジャンルがあるけど、中心は一つ。どこから潜ろうと、中心に近づくことさえできれば、どんなデザイン領域でも、中心同士は近いのです。

 

中心に近づくための条件はただ一つ、立ち止まらずに目の前のやるべきことに最善を尽くすこと。そうして周りからの信頼が厚くなればプロジェクト内での立場が変わり、やがて新しい立場が自分を育ててくれます。

 

同じことをやり続けて不安になる人にこそお伝えしたいのは、迷い立ち止まるのではなく、いろんな表面をかじって回るのでもなく、今やっていることを信じて、中心に向かって進んでみれば、自ずとその道は別の世界に繋がっている、ということなのです。

 

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著者: 荒金 大典

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